全て脚本家一人のせいにするなよ!――『アルドノア・ゼロ』と『PSYCHO-PASS』、『艦これ』

 『アルドノア・ゼロ』の第2期が始まりまして、イナホくん無双が再開したようで。僕はまだ第1期の第8話で止まっていますのでとりあえずOPが澤野弘之楽曲ということで初回放送だけニコニコ動画で観たのですが、「さすが虚淵」とか「やっぱ虚淵なんだよなぁ」みたいな虚淵玄さんに関するコメントを多く見かけました。

 確かに『アルドノア』は虚淵さんが主要スタッフとして関わっている作品なんですけど、ストーリー原案と第1期第1~3話脚本だけですので、それ以降の展開はシリーズ構成を担当している高山カツヒコさんによるところが大きいと思います。実際、虚淵さんが『仮面ライダー 鎧武』参加の為に『アルノドア』を抜けたあと高山さんやあおきえい監督らの手によってストーリーラインが変化した旨の発言をしていますし、第1期第4話以降の展開も全て虚淵さんの手腕によるものではないことは明らかです。

 『PSYCHO-PASS』も同じくなんですが、こちらは虚淵さんが第1期と劇場版に主要スタッフとして参加しています。では何が言いたいのかというと塩谷直義監督と共同脚本の深見真さんの作風の方が大きいということです。塩谷監督に関しては虚淵さんと深見さんによって「俺たちじゃなくて監督だから!」みたいな旨の発言が出されています。ただ、監督自身は否定しているのですが……。そして深見さんですが単著で刊行された小説作品において本作とよく似ている展開やキャラクターが登場するものが多く、虚淵さんより深見さんの作風が滲み出てるのでは、と思います。

 例えば『ゴルゴタ』は元自衛官の男が妻と義母を殺害した少年たちに復讐を仕掛ける事件ものですが、どうみても狡噛さんと槙島のそれにしか見えない主人公が描かれています。『アフリカン・ゲーム・カードリッジス』でも暴力と銃器とレズビアンが描かれていますし、『僕の学校の暗殺部』『疾走する思春期のパラベラム』『ちょっとかわいいアイアンメイデン』などの作品にも『PSYCHO-PASS』に連なる遺伝子が確認できます。そもそも、『PSYCHO-PASS』は虚淵さんが比較的ハートフル路線の作品を執筆中に依頼され、従来のハードさを取り戻すために深見さんを呼び、脚本草稿を深見さんが執筆しているのですから深見さんの作風が滲み出るのも当然です。

 で、何故虚淵さんしか褒めないし貶さないのだろう、というとそれは有名だからにつきるでしょう。『魔法少女まどか☆マギカ』や『Fate/Zero』が良くも悪くも一人歩きしていわゆるライト層は虚淵さんが全てなんだ、と思い込んでいるに違いありません。ちゃんと知っているなら『アルドノア』はあおき監督と高山さん、『PSYCHO-PASS』は本広総監督や塩谷監督、深見さんにも触れるはずですからね。『PSYCHO-PASS』第2期では全話脚本の熊谷純さんが叩かれていましたが、これも虚淵さんと同様でシリーズ構成の冲方丁さんや塩谷監督について何も言わないあたりご察しです。

 『艦隊これくしょん -艦これ-』でも同様のことが言えます。吉野弘幸さんが脚本を担当した第3話において駆逐艦如月が轟沈したらしいんですが(らしい、というのはまだニコ動配信が無いので未見だからです)、その展開を全て吉野さんの責任だとして批判している人がいますが、そのストーリーラインを決めたのは草川啓造監督やシリーズ構成の花田十輝さんらであって各話脚本の吉野さんではない。というか『PSYCHO-PASS 2』同様、シリーズ構成が構成を決めて、各話脚本は自らの作風を出すことはあれど展開を変えることは出来ないと知らずに各話脚本を叩く人が多すぎる。そもそも『艦これ』は原案ストーリーを担当している原作ディレクターの田中謙介さんの作風による所が大きく草川監督や花田さんの作風とは言えないらしいんですが……。まぁ、あくまで吉野さんではないのですよ、如月を轟沈させたのは!

 ということで、この記事を読んだ方で虚淵さんや熊谷さん、吉野さんを当該作品において名指しでコメントしていた人は実は違うよ、ということを知ってください!

 

 ……他にも『フラクタル』は山本寛監督一人の責任じゃない、とかいろいろ言いたいことはあるんですが自粛します。