これが明日のリアル――『東京マグニチュード8.0』

 2012年夏に東京湾北部を震源とするマグニチュード8.0の地震が発生したことを想定して、発生当時お台場にいた姉弟と出会った女性の3人が自宅のある世田谷・三軒茶屋を目指すシュミレーション作品。2009年にフジテレビ「ノイタミナ」で放送され、2011年の東日本大震災当時にアニマックスで放送されていたが打ち切られていて、震災後に生きる僕らにも非常にためになるしドラマとしても深い作品に仕上がっていた。元々興味はあったのだが未見で、先日加入した「アニメ放題」にてこの作品が配信されていたので視聴した。

 冒頭のケンカ状態にあった姉弟地震が発生し、姉が第一に弟の安否を心配するという展開であったり、家族不仲状態から地震を経て再び集結するという展開がベタでありながら丁寧に描かれていた。また、伏線の張り方も上手く、分かりやすくも深いというジュブナイル小説に似た印象を受ける。発生当時にお台場のアクアシティいた姉が発生後に観た風景のなかに自由の女神やレインボーブリッジが存在したり、中盤で登場する東京タワーなど、自由や希望の象徴が倒されることによって絶望的な状況を印象付けたり、有名なスポットを破壊することで、この想定下の東京がいかに悲惨な状況かと分かりやすくしている気もした。
 ただ、消化不良といえばロボットオタクの件だろう。というか、マリさん含めた後日談部分が尺として少なく、あと数分は尺を要していた。姉が主人公であるので弟の今を受け入れることも必要ではあるだろうが、弟が地震後に出会ったもの・人の代表である彼が(描写としては存在するが)もっと後日談に登場して欲しかった。
 橘監督作品を視聴するのは『ばらかもん』に続いて2作目となるが、どちらも丁寧に人間ドラマを描いていて、本作も丁寧に心理描写を描いていた。制作のキネマシトラスは『ゆゆ式』や前述の『ばらかもん』などを制作しているが、(個人的には好きだが)売れなさそうな質アニメを作っていて、やはり独立1作目の本作もそれだった。好きだけど。共同制作のボンズは独立元でもあるし、地震による建物崩壊のエフェクトなどノウハウが受け継がれていたように思える。
 また、オープニング主題歌もabingdom boys schoolと強力で、物語に寄り添いつつも力強く希望を与えるその楽曲は絶賛に値する。
 今、僕らは何を知ってどう生きるべきか。東日本大震災を経た現代に生きる僕たちが、震災以前に想定された本作を観てそう感じることが可能な名作。放送当時とは意図が異なるかもしれないが、名作であることに変わりはないと信じている。