アニメ業界が注目されはじめているのか?――『SHIROBAKO』とか『ハケンアニメ!』とか
昨日発表された本屋大賞2015のノミネート作品に辻村深月さんの『ハケンアニメ!』が選ばれていました。この小説は「an・an」に連載されたアニメ業界のお仕事もので、何人かの監督やアニメーター、プロデューサーを取材の上モデルにしているので、多分読めば誰と何の作品について言及しているのか解ると思います。というか、あとがきで幾原邦彦監督や松本理恵監督らをモデルにしていると公言していますが……。
ハケンアニメ! | 辻村 深月 著 CLAMP 画 | マガジンハウスの本
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この本がノミネートされたのは作品の完成度なのか作者の知名度なのか微妙な部分がありますが、ネタが解るからかとても面白い小説でした。それに松本監督が東映アニメーションを辞め『血界戦線』をボンズでやるという発表の前でしたので、作中で所属スタジオを辞めたときは「あ、そこはフィクションなんだ」と思っていたんですが、発表されてから「辻村さん知ってたのかよ!」と……。
ブクログに感想を書いていたのでここに転載します。
アニメ好きで辻村作品好きの僕にとっては「待ってました!」と言わざるを得ない単行本化。
第一章は幾原邦彦監督をモデルにしたキャラクターの話。完璧に『輪るピングドラム』の制作を暗喩してて(実際は12年振り)、『少女革命ウテナ』をモデルにした作品で衝撃を受けた主人公、というあたりがたまらない。
第二章は松本理恵監督をモデルにしたキャラクターの話。しかし、『京騒戯画』ではなくMBS日曜5時枠を思わせるアニメの話となっています。『マギ』に『ハイキュー!』を混ぜた感じでしょうか。
第三章はアニメーター・長谷川ひとみさんをモデルにしたキャラクターの話。長谷川さんは『ギルティクラウン』などで知っていましたし、新潟のスタジオとあってモデルはProduction I.Gの新潟スタジオっぽい。田んぼが聖地なのは『らき☆すた』かな?聖地形態としては『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』に限りなく近いですが。
アニメ好きなので元ネタが解る上に辻村さんの筆致で描かれるキャラクターが可憐で仕方ありませんでした。是非、次回作を。チヨダコーキも絡むラストの続きを読みたい! *1
以下本題です。最近になってアニメ業界を題材としたフィクションが増えてきていないだろうか?と思うのです。というか脚光を浴びてきた?
現在放送中のTVアニメ『SHIROBAKO』はもちろんのこと、P.A.WORKSのお仕事女子シリーズ第2弾として水島努監督のもと制作されている作品です。物語は割愛しますが、P.A.WORKSの堀川憲司プロデューサー曰く「「SHIROBAKO」は、「あるある」50%、「こんなんだったらいいな」20%、「ネーヨ!」10%、「え(゚_゚;)」10%で構成されています。あと10%は?」といった感じで制作されていて完璧に忠実というわけではないようですが、オマージュ先が解ったり雰囲気がつかめてお仕事物としてきちんと成立しています。だから面白いんです。
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本作の前にトリガーの舛本和也プロデューサーによる新書『アニメを仕事に!』が刊行されています。堀川プロデューサーも声優陣に読ませたらしいですね。この本は制作進行ってこういう仕事をしているんだ、という入門書なんですが結構読みごたえがあって、「ふむふむ、こういう進行の仕方をしているのか」と『SHIROBAKO』の二次創作小説を書いているときに参考になりました。
アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本 (星海社新書)
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『戦勇。』でTVアニメの原作者にもなった漫画家・春原ロビンソンさんの『anime95.2』も制作進行のことをコミックエッセイという形式で面白おかしく描いています。『戦勇。』のTVアニメ版のこともどこかに書いていたような気はするんですが思い出せません……。
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他にもアニメーターの渡辺とおるさんによる『上井草アニメーターズ』という漫画もありました。こちらは制作進行ではなくアニメーターという目線からアニメ業界を描く作品です。まぁ、2巻で打ち切りに遭いましたけど……。
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ただ、これらの作品はアニメ業界に在籍している/していた人が書いている作品ということで内輪ネタもあったりする。そこは分からないなぁ、と思いつつも忠実にお仕事が行われている様子は見ていて興味深いものがあります。
他にも僕が把握している限りでも何作品かアニメ業界を舞台にした作品があります。峠比呂さんの『これだからアニメってやつは!』も制作進行の女性が主人公の物語。恐らく高村和宏監督のことが描かれたりしています。パンツアングルはあの人しかいないよね、股監督は……。
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電撃文庫の秋傘水稀さんによる『アニメアライブ!』は高校のアニメーション同好会を描いた小説。これも続編は出ないようですが、わだぺん。さんの挿絵含め大好きな小説です。ジャンプSQ.に連載されていた中田貴大さんの『戦場アニメーション』も高校のアニメーション同好会の漫画でした。
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こんな感じでいろいろな作品があるのですが、制作進行をメインにするか高校のアニメーション同好会をメインにするかの二択しかアニメ制作の全体を描くことは無理なのかなぁ、といった印象を受けます。『ハケンアニメ!』はプロデューサー、監督、アニメーターの偶像劇で様々な目線から同じ作品を描いていて、制作進行や同好会をメインにしないアニメ業界ものを作るアンサーはそこなのかな、と感じました。『上井草アニメーターズ』はアニメーターに目線を絞ったため作品の制作過程が地味だった点が打ち切りポイントなのかな、とも。去年に放送された『アオイホノオ』のようにファンが作品を生み出す、という過程は現在放送中の『冴えない彼女の育てかた』にも通じますし、これからなにかフィクションを創造する業界ものが増える予感がします。その前兆として今挙げた作品や今夏放送の『それが声優!』があると思いますし、これからも増えていってほしいなぁと一方的な願いがあります。というか増えろ。
*1:チヨダコーキは辻村による『スロウメイツの神様』に登場する小説家で本作にも登場