二次元というフィルターのリアル――『花とアリス殺人事件』
自称・最強の転校生の有栖川徹子は転入先のクラスで噂に巻き込まれる。それは「去年在籍したユダという先輩が四人のユダの妻に毒を盛られ死んだ」という殺人事件の噂だった。その噂によって「結界を破った」とされたアリスはその噂に興味を持ち、不登校中でお隣さんのその結界の中に席を持つもう一人の少女・荒井花にコンタクトを取り、殺人事件の真相を追う、が?
最初は単なる岩井監督のアートフィルムだと思ったんですけど、広がり過ぎた時空が全て一点に再集結する素晴らしいストーリー構成でありながら、映像・音楽・演技とどれをとっても素晴らしい作品だったと思います。
前作『花とアリス』が時系列としては未来に当たる本作では、鈴木杏、蒼井優の二人が中学生で在り続けるために3DCGとロトスコープを融合させた映像(『信長協奏曲』以来、でしょうか)という表現方法が選択されていて、それによって実写では生々し過ぎて痛々しいものがアニメという二次元フィルターによって普遍的でリアルな女子中学生として映る二重構造になっています。リアルを捨てることでリアルを得ているわけで、例えば結界を破った際の儀式のシーンは実写ならカルトホラー映画になってしまいますが、アニメにすることでいてもおかしくない、という判断を下せるようになってます。面白い。僕は前作『花とアリス』を未見なんですが、前日譚というだけあってこれ一本で十二分に完結していますし、素晴らしい作品だったと感じています。
アニメから実写に進出する演出家は多いですが(『アリス・イン・ワンダーランド』のティム・バートンや『のぼうの城』の樋口真嗣など)、実写からアニメに進出した演出家は少ない、とパンフレットで湯山玲子さんが書いていますが、最近では『劇場版 PSYCHO-PASS』で本広克行監督が、『STAND BY ME ドラえもん』で山崎貴監督が参加していますし、その仕事と今回の岩井監督を比較してみようかな、とも考えてみたり。