拙い誕プレの送りかた――『冴えカノ』澤村・スペンサー・英梨々誕生祭用SS

 桜が芽吹くのと同時に、だんだん陽の昇る時間も伸びてきて暖かい日差しが窓から入り込むようになった三月中旬の放課後。blessing softwareとしての活動も“諸般の事情”のために最近は行っておらず、単に俺こと安芸倫也の部屋に加藤恵がゲームをしにきては帰る、ということを続けていた。というか加藤、そんなにプレイしたいならシリーズ外伝小説とBD-BOX混みで布教してやるよ、『Fat○』。

 そんなわけで今は俺の部屋に二人きりだ。べ、別に二人っきりだからって何のフラグも立ってないんだからね? まぁ、そこは安心安定のフラット恵さんだからご愛嬌ってことで。レーティング的にも嬉しいものだ。

「なんか絶対今私に対して失礼なこと考えてるでしょ、安芸くん」

「すまん加藤」

 コントローラーを離すことはなく、体育座りでゲームをプレイしながらも溜息を一つ吐いて、「なんだかなぁ」と溢すだけ。あっさりしすぎだな加藤。

「そうだ、安芸くん」

「ん?」

 一度画面を止めて問いかける加藤。あ、そのシーンはいいよな、凛と桜がだなぁ……。

「いや、ゲームのことじゃなくてね?」

 視線に気づいたのか選択肢からゲームに対する質問が消える。じゃあなんなんだよ。

「ほら、もう来週末、英梨々の誕生日でしょ? 何か送らないのかな、って」

「あ、あぁ……」

 そう、来週末の三月二十日は幼なじみで金髪ツインテールがトレンドマークの天才同人作家であるところの澤村・スペンサー・英梨々の誕生日だ。

「安芸くん、どうするの?」

「どうするもこうしたもないだろ。英梨々の家、いつも親子三人で高級料亭に外食に行くんだぞ?」

「や、それはそうでも誕生日プレゼントだって」

 思わず沈黙してしまう。誕生日プレゼントに送って一番好感度が上がるアイテムって何だったっけ。まず好雄に誕生日聞くことから始めないといけないんだっけか。

「安芸くんが送ったら、何でも喜んでくれると思うけどね?」

「加藤、俺と英梨々が今どんな状態か知ってるよな?」

「うん、私思わず怒っちゃったしね」

「そんな状態で俺にプレゼント送れとか鬼畜ゲーすぎない!?」

 

 暗転。

 

 ――三月二十日。

 私、澤村・スペンサー・英梨々の十七回目の誕生日だ。

 春休み前最後の高校登校日だったこともあり、部活はない。とはいえ、美術部の後輩たちがわざわざ私のクラスまで来てプレゼントをくれた。

 私が期待してるのは、ただ一人からのプレゼントなのだけど、こんなことになっちゃったしくれるはずない、と一人傷心にくれる。

 プレゼントをどうにか紙袋に詰めて、既にみんな帰ってしまった教室から出て行こうとすると唐突に扉が開いた。まだ美術部の後輩で残っていたのか。

「なに? え~っと」

 くるり、と振り返って誰が訪ねてきたのか確認しようとする――と。

 そこには黒髪ロングストレートの性悪女が立っていた。

「なに来てんのよ、霞ヶ丘詩羽

「学校の一教室に入っただけで罵るとか、あなたはそんな権利ないわよね、澤村さん」

 霞ヶ丘詩羽――ともにblessing softwareから離脱した共犯者。

 その共犯者が紙袋を私の方へと差し出していた。

「な、何よ。何の冗談? あんたが誕生日プレゼントなんて」

「……どうせ倫理君からの誕生日プレゼントを期待していたんでしょうけど、あんなことしたら貰えそうにないから憐み80%のプレゼントよ。有りがたく受け取りなさい」

「あと20%は何よ」

「強いて言えば、これから共に裏切り者となる仲間への同情、かしら」

「……」

 黙ってあたしはその紙袋を受け取る。中身は――。

「な、何よこれ!? もう手に入らないと思ってた『甘ブ○』のBD初回限定盤じゃないの、それにこれは来週発売の第4巻……。あんた編集部、利用したわね?」

「有りがたく受け取りなさい。ところで、倫理君からはあったの?」

 その質問で、瞬時に赤面してしまった。

「あ、あるし、たぶん……」

「なら、すぐに確かめてご覧なさい。どうせそこのロッカーでしょ? 万が一あるとしても」

「あ、あるもん!」

 私は冷や汗をかきながらロッカーへと向かう。ありますようにありますように……。

「早く開きなさいよ」

 後ろから来ていた霞ヶ丘詩羽に敢え無くロッカーは開かれ、その中身が露わとなる。

 え、えーっと。

「これは……」

 

 暗転。

 

「それはセンスがないよ安芸くん」

「加藤、お前にセンスを語られる時がくるとは思いもしなかったよ……」

 放課後、いつもの俺の部屋。加藤は相変わらず『Fa○e』をプレイ中だ。本当に一式布教してやろうか。そこから『空の境○』と『魔法○いの夜』に……。

「はいはい。でも女の子の誕生日プレゼントにギャルゲーってのはどうなのかなぁ? 乙女心ってのが分かってないよ、安芸くんは」

「だって面白いだろ? 『ましろ○シンフォニー』」

「やったことないからそれについては分からないけど、なんだかなぁ、だよね。まぁ、そこが安芸くんなんだけどさ?」

「そ、か」

 そんなこんなで俺たちは激動の春休みへと――。

「えー!? アーチャーって士郎くんだったの!?」

「伏線結構あったんだが、それを見逃していたのか加藤……」

冴えない彼女の育てかた キャラクターイメージソング 澤村・スペンサー・英梨々

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