【コラム】fhánaの明確化するサウンドと澄みきったリリックについて

 2013年の夏、私がふとテレビをつけるとアニメがやっていて、エンディングテーマが流れていた。テレビのスピーカーから流れる美しい旋律と、夏の暑さをも消し去るような爽やかなボーカル。脳内を行き来しても聞き馴染みのないその女性の声に耳が離せず、画面に現れるクレジットを注視した。そして現れた彼女らの名前。「fhána」だ。

 fhánaはサウンドプロデューサーの佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunagaとボーカリスト・towanaによるユニットだ。別々のサウンドシーンにて活動していた佐藤・yuxuki・kevinが、愛好していたノベルゲーム『CLANAAD』を共通項にして立ち上げたユニットで、当初こそ楽曲ごとにボーカリストを入れ替えるというsupercelllivetuneのような手法を採用していたが、インディーズ活動時代にゲストボーカルとして招いたtowanaとの出会いにより「トゥルーエンド」として正式メンバーに昇格。その後のメジャーデビュー時は最初からtowanaを含めた四人で活動している。なお、ユニット名の由来は『CLANAAD』と同じゲール語を由来としており、日本語で「坂」を表す言葉らしい。

 デビューシングルとしてリリースされ、2013年夏クールのアニメ『有頂天家族』のエンディングテーマとなった「ケセラセラ」は、夏の気だるげも吹き飛ばすほどにビビッドなナンバーだった。アニソンってここまで攻めていいのか!?と思わずにはいられないほどに、サンプラーとギター、キーボードの音が合わさって、towanaのボーカルとミックス。綺麗なメロディは納涼感をも感じさせるが、身体中の毛が総立ちする「アツい」サウンドだった。そんな彼女らは『ぎんぎつね』『ウィッチクラフトワークス』『僕らはみんな河合荘』と一年通して主題歌を担当し、クオリティを高めていく。どのオープニングもエンディングも作品に寄り添いつつ、fhánaの個性を発揮するかのような独特のメロディが紡がれたのだ。

 その上で決定的なステップアップとなったのが、2014年秋クールのテレビアニメ『天体のメソッド』エンディングテーマとなった「星屑のインターリュード」だろう。多数の名作ノベルゲームを手掛けてきたライター・久弥直樹待望の新作に対して、ノベルゲームに対して尋常ではない愛情を持ったfhánaが挑む。それだけで注目しないわけがなかったが、実際に奏でられたサウンドは予想の範疇を遥かに超越した「これまでのfhánaとは全く異なるもの」だった。

 静かに始まるイントロは物語の余韻そのままにスタート。湖のほとりをなぞるような静けさからそのまま、波紋広がるような疾走感溢れるメロディに突入し、towanaのボーカルによって楽曲が染まりゆくAメロへと差し掛かる。エッジが効きつつも、色彩豊かな世界を途切れることなく紡ぎ続け、間奏へ。二番に差し掛かってからもスピードを緩めることなく作品の世界をこれでもかと表現したリリックと、fhánaのマスターピースとも呼べるサウンドが合わさってゆく。加えて、二番からラストサビに向かうCメロ。透明感のあるサウンドが明確化し、towanaと佐藤のボーカルが混ざり合う。その感覚が絶妙で、心地よい。「星屑のインターリュード」はまさにfhánaの代表曲といっても過言ではない、語り継がれるべきアンセムだろう。

 その後もfhánaは、こちらもノベルゲームを端に発する『Fate/kalaid liner プリズマ☆イリヤ ツヴァイ ヘルツ!!』やオリジナルロボットアニメ『コメット・ルシファー』などの主題歌を手掛け、リリース毎にさらなる高みへと昇っている。『ハルチカ 〜ハルタとチカは青春する〜』オープニング主題歌「虹を編めたら」では、青春のきらめきを表すかのようにアニメの主人公よろしくtowanaと佐藤のツインボーカルが重なり合い、作品の持つ尊さを跳ねさせた。

 近年のアニメソングシーンでは、アニソンアーティストや声優アーティスト通してみても、ボーカルやメロディこそはっきりとした核の存在するものは多いが、一瞬聞いただけで「ん?」と文字通り耳に残るものは少なくなってきた。その中でもfhánaは重要な価値を持つだろう。佐藤・yuxuki・kevinの各メンバーが独自の活動(バンドやネット音楽シーンなど)にて培った個性を遺憾無く発揮し、そこへ透明なtowanaのボーカルが載る。アイドルポップではなく、作品の空気感を大事にしつつも、fhánaらしさをプラスした上質なポップを奏でるのだ。ベタすぎず、エモーショナルなナンバーを作り続け、一作ずつそのクオリティをアップデートしていく。それがfhánaの奏でる音楽の素晴らしい場所といえるだろう。

What a Wonderful World Line(通常盤)

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